反主流

人生への恋文―往復随筆 (文春文庫)/石原 慎太郎
¥750
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世の中から、散々叩かれた2人が交わす往復書簡。

これは書簡という形をとってますが、

私は石原慎太郎の文体が大好きです。

彼はフランス語もフランス文学もとても愛してる。

なのに、フランス語は数も数えられないとか悪態をつく。

例えば、99はフランス語では、20×4+10+9。

古くからの20進法が依然として残っていて、

20進法と10進法の2段階で考えなければいけないので、手間といえば手間です。

それを公用語に・・・となったら世界が混乱しそう。・・・というのはありますね。

20進法って手足の指が全部で20本からきてるというのは、ホントかな・・・

この本の中で石原慎太郎がこんなことを書いています。

若い頃読んだアンドレ・ジッドの言葉を思い出しています。

あの美しい青春の書『地の糧』の中でジッドはいっていました。

「ナタナエルよ、君に情熱を教えよう。

行為の善悪を判断せずに行為しなくてはならぬ。

平和な日を送るよりは、悲痛な日を送ることだ。

私は死の眠り以外の休息を願わない。

私の一生の満たし得なかったあらゆる欲望、

あらゆる力が私の死後まで生き残って私を苦しめはしないかと思うと、ふと慄然とする。

私は心の中で待ち望んでいたものをことごとくこの世で表現した上で、

満足して!−あるいは絶望しきって死にたいものだ」

思うにこれはいかにも空恐ろしい忠告ではないでしょうか。

若い頃こんな言葉に行き合ったということは、

はたして天の恩寵なのかそれとも何かの呪いなのでしょうか。

独善、誤解、孤立、徒労、悲痛、人々が恐れるすべてのものをジッドは良しとして教え、

私もそう思いこんでしまったのでしたが。

しかしまあここまで来たら、この道を行くしかありはしまいと思ってもいます。

(以上、34頁から抜粋)

個性というのは、

社会という通念で考えると、しばしば対立するものだと思います。

それでも『個』を押し通し

『絶望しきって死にたいものだ』とは、なんという激しい言葉でしょう。

石原慎太郎は、10代にしてこのような言葉と出合い、

この言葉に駆り立てられるように、身にして生きてきたのでしょうね。

人が日々の安泰を願う中、いばらの道をわざわざ作ってまで歩かねばいけないと、

自分の信じるところ善悪さえ判断せずにとは、

ジッドもすごいこと言い放ったものです。

この言葉に世界中でどれだけの人が感化されたでしょう。

この地の糧という本を読んでみたいと思ったのですが、

再版されておらず、中古でも5000円という貴重な値がついています。

図書館ならあるでしょうから、機会があれば是非。

ジッドの小説はすごいです。

私は田園交響曲を読みながら最後にはあまりのことに、本を放ってしまいました。

「ふざけるな!」って感じです。

「こんなことがあっていいわけない!」の思いです。

でも、こんなことがあっていいわけはないという事が起こるのが現実で、

それも自然の成り行きなのですけどね。

石原慎太郎の文章は、

フランス文学の中にもののあはれがあるような、かっこいい文章です。

そしてまず、日本語がとても美しい。

なので読んでいて心地良い。

この本は、石原新太郎が書いたテーマに

瀬戸内寂聴が返事をするという往復書簡という形をとってます。

2人が同じテーマの元に、どのような文章の書き方をしているか比べられて面白いです。

こういう場合、どうみても男性の方がロマンチストで穏やかです。

女性は、ストレートで面白みが無い(笑)

ただ訴える力は女性の方が強いように思います。


書簡という形のせいでしょうか、

石原が寂聴を姉のように慕い、心を頼らせている様子はまるで童子のようで、

自分が素顔で語れる(心底は素顔でないとしても)異性というのは

歳を重ねるにしたがい、余計に救いの神(仏)なのかなとも思えます。

どれだけ強く見える人でも、いや、強く見える男ほど、迷える哀しい生き物に私は見えてしまいます。

男性という生き物の、その心の奥底が測りきれないだけに、その翳りにも見える部分が


いじらしくもあり、哀しくもあり・・・

石原慎太郎の言葉に涙してしまいました。

女性はわかりすぎるから、もういいです(笑)


この人は、

国民が自分を辞めさせる、自分を踏み台にして奮起して欲しい、

そんな覇気をもった国になって欲しいと願っているのではないでしょうか。

それぐらいになったら、自分も安心して政治家を辞めて物書きになれるのに・・・と。

この人、絵も繊細で、

なんで政治家なんかやってるのかな・・・と思うと、

やはり恩返しなのではないかと思います。

自分の命を救ってくれた日本国を守りたい。

幼い頃、死を覚悟した者にしかわからない何かがあるのかもしれないと思います。